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沖縄旅行の三日目です。
石垣島にいる頃です。
梅雨の時期だけど、晴れ間があるといいな。


『幻獣』その3

 白状しよう。
 私はとても釣りが下手だ。
 ろくすっぽ釣れた試しがない。
 多分、生まれて初めて釣った魚が、野生化した金魚だったからだろう。
 他の者は皆、フナばかり釣っていた池だというのに。

 しかし、彼は別だ。
 どんなときでも、彼は何か、獲物を釣り上げる名人なのだ。
 その彼さえも、その日は、眉間にしわを寄せる状況だった。
 ピクリとも、浮きが動かないのだから、打つ手もない。

 昼前くらいの時間だったろうか。
 もう、いい加減、諦めようということになった。
 疲れた顔を見合わせ、私たちは、ノロノロと釣り道具をしまいこんだ。

 そのときだった。
 太陽が雲間に隠れ、幾本もの光の矢が、にごった水に差し込む中、突然、それは現れた。
 暗がりから、光の筋の中へ、そして、また、暗がりへと、鰭ひとつ動かさず消えていったそれは・・・
 全身が真っ白な、1メートル以上もある巨大なウナギだったのである。

 胴回りは大人の腕よりも太かったように思う。
 病気のように体表がほの白く、尻尾に至るまでの全身の筋肉を何一つ動かさないまま、それは闇から光、光から闇へと消えていったのだ。

 あまりのことに呆然としていた私たちは、それが視界から消えるや否や、大慌てで、もう一回、釣り道具を引っ張り出した。
 だが、それを捕らえることはおろか、その後もクチボソ一匹、釣ることは叶わなかった。

 あれは一体、なんだったのだろう。
 ダムに住む生き物たちの主だったのか?
 それとも、別の何かだったのだろうか?

 二人の間で、その後、この出来事を口にしたことは一回も無い。

 この世のものではない何か。
 今だったらそうは思わないだろうが、当時はとても神聖なものを見てしまったように感じていた。
 同時に、どうせ誰も信じてはくれないだろうという気もしていた。
 だから、このことを話題にすること自体、無意識のうちに避けてきたのだ。
 いずれにせよ、この体験を証明するすべは、今となっては何一つない。

 その後、高校受験を迎える頃になると、私は勉強に打ち込むようになり、彼との付き合いも自然と遠くなっていった。
 程なくして、また、引越しを行い、私は少年時代を過ごした地を離れ、以降、彼とは音信不通になってしまったのである。

 あれは私が大学2年に進級した頃だったか。
 交通事故で彼はこの世を去った。
 スピードの出しすぎで電柱に激突したのだ。

 通夜の日、数年ぶりに訪れた、小さい頃、彼と共に育ったあの土地は、当時と変わらない景色のままだった。
 今でも、きっと、そのままだろう。

 この世には見てはならないものがあるのかもしれない。
 私は、祟りだの呪いだのといったものは信じていない。
 だが、ひょっとすると、この世のものならざる何かを見てしまった者は、早世の定めを負ってしまうということがあるのやもしれぬ。

 死者に名前は無い。
 だから、この話に出てくる少年も、ずっと「彼」のままで終わることにする。
 もしも、いつかまた彼と再会することができたら、聞いてみたいことがある。

 君は私をかばい、とりなしてくれたのか?
 初めて出会った、あのときのように。

(完)


明日は・・・?


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