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今日は大宮に帰宅します。到着は深夜になる予定。
ということで、お話の最終回をお届けします。


「大きなのっぽの古時計」 ~その3~

「なあんだ。やっぱり、ただの迷信だったんじゃないか。」
 洗面所で僕が呟く。
 さっきの慌てぶりが、今になってなんとなく恥ずかしくて、わざとチェッと舌打ちすると、
「あらあ、私、ずっと迷信だと思ってたわよ。」
 妹がすまして言った。
 お前だって死なないで、なんて言ってたくせに!
 僕が、こいつめ、と、げんこつをくらわそうとした時、
 ガッシャーン
 と外ですごい音がした。
 事故!
 慌てて外に飛び出してみると、家の前で車がひっくり返っている。
「いや―――っ」
 妹が絶叫した。
 その瞬間、僕らの時が止まってしまった。
 小さな体を空に向け、弟が雪の中に倒れ伏していたんだ。
 新雪が温かい血を吸って、ぐったりと溶けかかっている。
「ヒデくん、ヒデくん!」
 いくら呼んでも、弟は返事をしなかった。
 大きく目を見開いて、弟は驚いたような顔をしていた。
 お父さんとお母さんが走ってくる。
 近所の人が、次々と顔を出す。
 僕は呆然と立ちつくしていた。
 信じられなかった。
 まるで天が落ちてきたみたいだった。
 不思議なことに、僕は涙がちっとも湧いてこなかった。
 弟は、雪だるまの雪が、もう庭になくなったので、外に出て行っちゃったんだろう……
 どこか遠くの方から、サイレンが近づいてきた。
 お母さんの泣きじゃくる声が、僕の麻痺した意識下にかすかに響いた。
 十二時になったら、もう……
 砕けた雪だるまと、逝ってしまった弟を見ているうちに、僕の心にボーン、ボーンという、あの音色が蘇ってきた……


 あれから幾歳月が流れ、僕は「独りぼっち」になった。
 祖母が逝き、父、母が旅立ち、先週、妹が身罷った。七十二歳だった。
 一人一人、僕の周りから、親しい人が去っていった。
 掌から砂がこぼれ落ちるみたいに。
 僕は結婚がうまくゆかず、子供もいない寂しい晩年だ。
 全くの「独りぼっち」なのだ。
 だが、今は違う!
 一昨日、大きな荷物が妹から届いた。
 開けてみると、それはあの壊れた古時計だった。
 僕は、暫し、少年時代の回想に耽り、子供の頃につけたナイフの傷痕を指でたどった……

 そう、僕はもう「独りぼっち」じゃない。
 こうして目をつむると、父や母、妹や幼くして逝った弟の姿が、すぐそこに見えてくるのだ。
 懐かしそうな笑みを浮かべて、みんなが僕を待っている。
 この頃はその気配さえ、僕には感じられるのだ。

 古時計が、昨日の晩、動き始めた。
 コツ、コツ、コツ、コツ……
 静かに時を刻む古時計。
 僕の命の灯を、少しずつ、少しずつ、刻み取ってゆく。

 大きなのっぽの古時計。
 おじいさんの形見の時計。
 もうすぐ十二時の鐘が鳴る……

END
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